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若者はこんな言葉を使っている(座談会)
山口仲美 |
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・この座談会は、二〇〇六年八月二二日(火)午後二時から講談社の社屋で行われたものです。出席者は、五十音順に記すと、柏葉智子さん、加藤健太郎さん、川口紗矢子さん、合屋貴史さん、小林裕大さん、静谷麻衣さん、高岡航さん、野田真菜さん、原佳世さん、細谷尚子さん、山本昴祐さん、の十一人。慶応大学・上智大学・日本女子大学・日本大学・早稲田大学の学生さんたちです。事前にどんな内容の座談会なのかを説明することなく集められたにもかかわらず、すぐに話題になじみ、たくさんの情報を提供してくれました。
・ 若者たちの発言には、あまり手を加えてありません。若者のナマの話し言葉の特色を味わっていただきたいと思ったからです。
フツーにすごい
山口 それじゃ早速いきますか。「これって若者言葉じゃないの」と思われる例をあげていただきましょう。普段使っていると、若者言葉かどうか分からないんですよね。だから、こういう言葉を使ってしゃべっているということを話してくだされば、いいのよ。
細谷 「フツー」に。
山口 そうなのよ。若者に「フツーにうまい」って言われると、中年以上のオジサンやオバサンはすごく困る。普通っていうのは中間なのよ。「フツーにうまい」って、何だろうと思っちゃう。だから、お父さんやお母さんは聞かない? 「フツーにうまい」って言うと、「えっ、おまえ……。」
細谷 どっち、みたいな。
山口 そうでしょ。お父さんやお母さんからすると、「普通」は「平均・並」っていう意味。だから、「フツーにうまい」という組み合わせが、考えられない。若者にすれば、「フツーに」というのは、「素で」とか、「そのまんまで」という意味ですね。「何も誇張しないでも、うまい」っていうこと。「チョーうまい」わけじゃあないけどね。
原 何もしなくてそのまんまですごいことしてると思ったりするときに、「あ、フツーにすごい」とか言ったり。
加藤 それ以外にも「フツーにうぜえ」とか言う。
細谷 なんか「当然のように」みたいな。意味としては。
加藤 「フツーに」っていうふうに言っておきながら、普通以上の感情が込められている場合がある。
静谷 「フツーにかわいい」とか。
山口 それはかわいいのね。
加藤 事実かわいい(笑)。
山口 強調系の語として使うときもあるということね。そうか、何もしなくてもそのまんまでOKということは、結局「強調」になるというわけだ。「フツーに」を強調に使うのは、最近出てきた若者言葉ですね。まだ新しい。
渋滞グロい
高岡 「グロい」っていうのは若者言葉になるんですか。
山口 グロテスクから来た言葉ね。
高岡 はい。
山口 いいんじゃない、「グロい」って。それを高岡さんは使うのね。
高岡 使いますね、よく。
山口 「あいつ、グロい」(笑)。
小林 そこまでは言わない。
高岡 それは用例がよくない。人は対象にしないかもしれない。物とか、あと、たとえばホラー映画のとか、そういう……。
小林 フツーに「気温グロい」とか「渋滞グロい」とか、最悪な状態を指す全般で「グロい」とか、使いますよ。
山口 「渋滞グロい」って、何?
小林 渋滞がすごいっていうことです。
原 提出物とかいっぱいあったりすると、「マジ今回グロいわぁ」とか言って話したりとか。
山口 「気温グロい」って?
小林 「暑い」って言えばいいのに、なんか「グロい」を使っちゃうみたいな。
山口 「最悪!」って感じるときに、「グロい」っていうのね。これは、最新の意味。「グロい」自身は、数年前からあるけれど、「グロテスク」の意味を引きずっていた。でも、今は進化して「最悪」の意味なのね。
高岡 「えぐい」というので、たとえば課題とかがいっぱい出て、「あの課題、マジ、えぐくね?」とか、けっこう追い詰められたときに発しちゃう言葉っていうか。
山口 「きびしい」とか「きつい」って意味ね。
高岡 でも、「えぐい」は、ぼくも大学に入ってから使い始めた。そんなに古い言葉じゃないのかなって。
山口 いやいや、そういう意味の若者言葉として「えぐい」が登場したのは、二五年位前。一九八〇年版の『現代用語の基礎知識』の「若者用語」に登録されているもん。
「えぐい」っていう言葉自体の出現は、もっともっと古い。平安時代からある言葉よ!最初は味を表す言葉ね。あくが強くて、喉が刺されるような味ってあるでしょ。あれが、「えぐい」なの。「えがらっぽい」と同じ。
江戸時代になると、味のほかに「気が強い」とか、「思いやりがない」とかいう意味も出てくる。若者が使う「えぐい」は、こういう昔ながらの伝統的な意味じゃあない。そこが、中高年にとっては分かりにくい。
それにしても、「きつい」「きびしい」という意味を表す若者言葉「えぐい」は、ずいぶん長生きね。若者言葉って、流行語と同じくすぐに消えると思われている。でも、三〇年近くも使われ続けている若者言葉もあるってことね。
今日の顔マジない
川口 普通だったら「あ、こんなことありえないよね」とかも、「あ、ない」みたいな、「これ、ない」みたいな、言い方しますね。「こんなことがあったんだよ」「えっ、それないね」みたいな。
山口 「ありえない」を「ない」だけの省略語にするのね。ちょっと、話変わるけど、
お化粧してないときは何って言う?
野田 「すっぴん」?
山口 「すっぴん」は、ちょっと古い若者言葉で、今や若者に使われる言葉の上位を占めてる。米川明彦さんの調査によると、若者の八割以上が使っている。もうちょっとマイナーな語で、面白いのはないの?「死に日」とかは言わないの?「今日は、私は死に日だから、渋谷に行けない」とか、十年余り前の女子大生は使っていた。それを聞いたとき、私、「言えてる」って感心したことがあるの。
柏葉 「死に日」? 言わない。
川口 「今日、顔死んでるから」なら言う。
野田 「今日の顔マジないから、どこも出かけらんないわ」とか言う。
山口 「今日の顔マジない」?
野田 「ありえない」の略で「ない」。
山口 なるほど。それを私たち中年以上のものが耳にしたら、「顔があるじゃん」って言っちゃう。(笑)。
加藤 これは、うちの大学でしか通用しないんじゃないかと思うんですけど、「ありえない」のことを「アリエンティ」っていうんですね。これは一応、語源がありまして、数年前の慶応のミスコンの準ミスに、アリエンティ・サラさんという方が選ばれまして、イタリアン・ハーフです、そのアリエンティという名前がどうも衝撃的らしくて、ありえないのことを「アリエンティ、アリエンティ」というふうに言うようになったんですけど。
高岡 慶応でも、キャンパスが違うと使わないよ。
山口 そうなのよ。皆さんの使っている言葉は、若者言葉の中でも「キャンパス言葉」と言って、キャンパスで主に使う言葉なのね。だから、同じ大学でも、キャンパスによって違うことがあるのも、特色。
あないみじ
川口 けっこう古語を使ったりするんですよ。「それ、おもしろし」みたいな感じで使ったりとか、ほんと。
山口 すごくいい傾向!
川口 私の友達の周りとかの子だと、「いらじ」とか言う。「いらない」っていうことで。「これ、どうする?」「いらじ」みたいに言ったりとかしますね。
山口 学校で古典を習うから、そこから出てくる若者言葉ね。中高年は、もう古典なんて忘れちゃってるから、使わないけど、分かるわよ。そして、懐かしい気もする。学校時代を思い出したりして。
私、以前に「あだ名」を調べたことがあるのね。それを『命名の言語学』(東海大学出版会)という本にまとめた。そこに出ているんだけど、ある高校に、「なんめり」っていうあだ名の先生がいた。これは、古文で「○○なんめり(=○○であるようだ)」って出てくるでしょ? その先生の顔を見ると、なんかのぺっとして色が白い。「なんめり」って感じなのね。古語から出たあだ名。古語を使うと、楽しくなるのよね。
原 なんかちょっと古い感じがまたウケて。高校時代、友達とかで、こうこうこういうことがあったんだという時に、最後に「○○ありき」とか言って(笑)。「あったんだ、あ、そうか。まぁそういうこともありきだよね」とか言って。
野田 これも友達の中ではやってるだけなんですけど、「ほんとに○○だよね」っていう時に「いと○○だよね」って使います。
加藤 使う。「いみじく○○」とか使う。
山口 強調語を古語で言うのね。「いとうれし」よ。
野田 「あないみじ」とかけっこう普通に言います。
山口 「ああ大変」なんて言うより、「あないみじ」という方がゆったりしてムード満点。「こっちへいらっしゃい」なんて言わないで、「こちこ」とかね。古語を使った若者言葉は、ハイレベルね。すばらしい。
もれそう
山口 トイレに行くときは? 「W・C」の頭文字をとって、「ワシントン・クラブに行く」とか「ワールド・カップに行く」「ウエストコーストに行く」とか言わないの? 「おトイレ」だから、「音入れ」としゃれて聞いて、「録音する」「レコーディング」とか、ちょっと気取って言わない?
柏葉 女子大だと、みんな、ほんとに「トイレに行く」のを普通に言っちゃう。
山口 ああ、男の人がいないから隠さなくていいんだ。
柏葉 どっちかというと、本音で全部ずばずば言っちゃうから。時々ほんと、はしたない言葉をそのまま発したり。
山口 たとえば?
柏葉 「もれそう」とか(笑)。「破裂しそうかも」とか(笑)。共学だと男の子が言ってるようなことが、女子大だと女の子だけだからという安心感で。
川口 私、中学、高校って、六年間、女子校に通ったんですけど、やっぱ、女子校の子が集まると、しゃべり方とか汚くなるのが定番で、トイレに行きたいっていうのも、素直に授業中とかでも、「先生、私、トイレ」とか言ったりとか、「もう行かなきゃマズい」みたいな感じの、ほんとに普通に、素直に言うとか。
原 友達とか、サボりたいときに、「私、今日、下痢だわ」とか言って。あっ、今日こいつ、サボるんだ、とか思うような。
山口 すごくストレートな表現ね。確かに同性ばっかりだと安心して、トイレ関係の語も、そのものズバリ言ってしまうという事はあるわね。
でもね、私の勤め先の埼玉大学は、男女共学でしょ。彼らの言葉に聞き耳を立てていると、異性がいても平気で「ちょっとトイレ行って来る」とストレートに言う子も割合いる気がするの。最近は、トイレ関係の語は、口にしては恥ずかしいという意識が薄くなってきているんじゃあないかと思ったりしている。これは、後で調べてみよう。
妄想族
細谷 別にそんなに範囲を決めなくてもいいようなときに、「○○系」って使っちゃう。たとえば……。
山口 「マッチョ系」とか?
細谷 もっと抽象的な言葉に「系」って使っちゃうんです。たとえば「かわいい系」とか。かわいいのの中にも意味がいっぱいあるじゃないですか。だけど……。
山口 とりあえず、まとめちゃうわけね。
川口 事柄に対しても、「めんどくさい系」だから、もうやらなくていいみたいなとか。
山口 あぁ、なるほどね。「私、めんどくさい系だから、もういいよ」とか言う?
川口 言いますね。「もう今日は疲れた系だから、終わりでいい」(笑)。
山口 川口さん、よく使ってそうね。
川口 すごい言っちゃいますね。友達同士だと、「あー、そういう系だね」みたいな感じで、終わっちゃうかなっていうのがありますね。なんか心の中の気持ちとかを言うことが多くて、「もう今日、疲れた系」とか、「ありえない系」とか、そういう感じで使います。
原 あと「妄想族」っていう言葉。夢を追いかけちゃったりして、妄想みたいなドラマチックな展開とかを期待して、理想ばっか見てたりするという話を聞いたりすると、「マジ、あんた妄想族だよね」とか言って。
柏葉 ああ、私、「妄族」って使う。
山口 それをさらに略すのね。
柏葉 おまけに意味変化もさせて、その夢を追ってるじゃなくて、下ネタばっかり話してた人とかに、「頭ん中、妄族だよね」って言う。
原 で、私は族長と言われました(笑)。
山口 じゃ、下ネタ、うまいのね。「妄想族」っていう言葉は、割合新しい若者語ですね。二〇〇五年に出た加藤主税さんの『若者言葉事典』に、はじめて掲載されているから。その本には、「使っている人はあまりいないかも」なんて書いてあるけれど、いた!ここに、ちゃんと。そのうえ、その略語の「妄族」も誕生させてる。「族長」までいる(笑)。
ウサギ病
川口 最近、私が使うのは、「今、ウサギ病なんだ」っていうのがあって、ウサギはさみしいと死んじゃうから、すごいさみしいっていうことをアピールするのに「ウサギ病」みたいな。友達からも「それはウサギ病だよ」みたいな、さみしがり屋のことを「ウサギ病」っていうのがけっこう気に入ってます。
山口 やっぱり、パターン化するわけね。テレビドラマ「星の金貨」でそのセリフ、ものすごく印象的だった。「うさぎは、さびしいと死んじゃうんだよ」って酒井法子さんがつぶやくの。あれにヒントを得て、「ウサギ病」という若者言葉が発生した可能性がありますね。まだ新鮮な若者言葉ね。
川口 よくわからないですけど、でも、けっこう使ったり。
柏葉 ヤなことに対して「○○病」って、言うんですよ。「ウサギ病」とかも、さみしいっ て、マイナスなことに病気を付けて「ウサギ病」ってなったし、今、サークルではやってるのが、サークルから逃げたいときに「おうち帰りたい病」って(笑)。「○○病」ってやっぱ使います。「やる気ない病」とか。
山口 なるほどね。いろいろ造れるわね。「○○病」は、造語力が大きい。
とりま
川口 「もちろん」というのを「あ、もちもち」みたいな、「○○持っていく?」「あ、もち」みたいな感じで言ったりとか。
山口 省略するのね。
川口 メールとかでも「明日、○○だよね」「もち」みたいな、二文字で終了(笑)。
山口 「もち」は、戦前から使われている若者言葉なの。一九三一年刊行の『モダン語漫画辞典』、その翌年に出た『ユーモア・モダン語辞典』『社会百科尖端大辞典』に、「学生隠語」として、掲載されている。「銀ブラしない?」「もちよ!」なんて、今と同じ使い方ね。
でも、その頃の教育者や小説家は、「もち」に憤慨して批判している。「軽佻で中途半端でいや味な言葉」だって言うの。若者言葉は、いつでも非難されちゃう。
だけど、川口さんが言ったみたいに、簡潔でいいっていう面もある。使ってるとリズムがあって楽しい気分になるのよね。大人になると、使えないから、いいんじゃあない。今しか楽しめないもん。
それに、もう七〇年以上も若者たちに使われ続けてるって、すごくない? 寿命の長い若者言葉には、それなりの便利さ・面白さが備わっているのよね。
合屋 みんなが使うかどうかわからないですけど、高校のときは友達が、なんか意味不明のことを「意味ぷ」と言ってて、それはなんか可愛いし、いいかなと思ってて、高校の時使ってた。
山口 「意味不明」の「不」を「ぷ」って言うのね。
川口 私は、「意味ふ」って言う。
山口 「意味ぷー」って伸ばすときもあるみたいね。これは、割合最近耳にするようになった若者言葉。高校生中心に使う。
静谷 「とりあえず」というやつを、最近では「とりま」って略して言う。
山口 「とりあえず」のことを?
静谷 「まあ」みたいな。
山口 「とりあえず、まあ」の省略形ね。これも、新しい若者語だわね。
静谷 メールとかだとよく使うんだけど、「笑い」って書くじゃないですか。あれを「わら」と略したり、何でも略すみたいな。
山口 「笑々(わらわら)」っていう、チェーンの居酒屋さんがあるじゃない(笑)。チェーン店のほうは、さらに「わらわらと」人とが集まるようにという願いをかけて名づけてあるのかもね。縁起がいいもの。若者言葉の「わら」は、ケイタイメールで「笑」と書くところ出来て来たんでしょうね。
原 「若干」「ちょっと」とかをつなげて使ったりとか。「若干ちょっとヤバいね」とか言って。うちのサークルだけ、隠語みたいな感じでそれを「JTY」とか言う。
山口 「若干ちょっとヤバい」の頭文字だけをとって縮めたのね。
原 「マジJT○○だ」みたいな感じで使うときも。「コピペ」も言う。コピーして、ペーストしてってこと。サイトとかを見たときに、いい文章があったら、コピーして、ペーストして、送ったりとかするじゃないですか。「その文章いいね、どうしたの?」とか言ったとき、「あー、コピペしたんだ」とか。
加藤 検索エンジンでGoogleっていうのがありまして、それを使うときに「ググる、ググる」っていう言葉を使う。
山口 なるほどね。ずいぶん新しい若者言葉。「コピペ」「ググる」なんて、IT時代ならではの省略語。省略は、若者言葉を造る時の典型的なパターンなのよ。
ガン見(み)とチラ見(み)
加藤 何かを修飾する言葉で「バカうまい」とか、これはぼくは個人的には使いたくないんですけど、「ゲロうまい」とかいうふうに……。
山口 「ゲロうま」。まだ使ってるのね。「ゲロうま」って古いのよ。もう今から十数年前に流行っていた言葉。その頃、私、女子大に勤めてて、学生が、「ゲロうま!」とか言って、お母さんに怒られてたから。「そんな汚いことを言うの、よしなさい!」とか家で言われて、「先生、『ゲロうま』ってダメですか?」って聞きにきた子がいるから、よく覚えているの。
合屋 「ゲロ」で思いだしたんですけど、「オニ」とか、よく使いますね。「オニやばい」とか。
小林 あ、使う使う。
山口 えっ、それも古くから使われている! 強調語って、意外と寿命が長いのかもしれない。調べてみよう。「ゲキ」は?
合屋 ああ、使います。「ゲキ安」とか。
山口 それから「チョー」は使う?
合屋 「チョー」は使いますね。
山口 それを短縮した「チョ」っていうのは? すごく込んでることを「 チョ込み」とか、すごく眠いことを「チョネム」とか言うの。
合屋 「チョ」は、使わないですね。
山口 十数年前は、よく使っていたのよ。「チョー」自体の力が衰え始めているのかも。じゃあ、「バリ」は?
合屋 ああ、使います。「バリうま」とか「バリ飲み」とか。
山口 「マックス」は?
川口 あ、「マックス」は使う。
山口 「マックス怒ってる」とかね。じゃあ、「バク」は?「ばくすい(爆睡)」とか。
川口 何も付けないで、「それバクだよ」って。
山口 それだけで使うんだ。「ばくすい」は、今から十数年前に出てきた若者言葉だから、さらに新しさを求めて、「バク」にまで省略されちゃったんだ。なるほど。それから「究極」は?
細谷 そのときによって、度合いによるかもしれない。ほんと究極に疲れてたら「究極疲れた」。
高岡 ほんとに究極のときしか使ってない。
細谷 二日寝てないとかだったら、「究極ヤバい」とか言うかもしれないけど。
山口 とっておきの強調語ね。
野田 「ガン寝(ね)」とか言ったりする。
山口 あー、「がんがん」からきた強調語ね。ものすごく寝ちゃうのね。
高岡 「ガン見」とかも言う。ずーっと、じろじろっと凝視する。
山口 「ガン○○」も、十数年前も使っていた。「ガンうま」とか言っていたわね。今も、よく使うのね。「ガン見で、やらしい」とか?
合屋 かわいい子とかを見てたりすると、「おまえ、ガン見してんじゃねえよ」みたいな感じで、友達に突っ込まれるだとか、そんな感じ。
山口 「してねえよ」って言うんでしょ?
合屋 そんな。
川口 「ガン見」の逆に、「チラ見」とか(笑)。
山口 「チラ見」と「ガン見」とがあったらいいわけだ。普通に見るのはなんともないわけだから。
小林 強調語って、仲間内でルールみたいなやつがあるんじゃないですか。この仲間ではいつも「ガン」を使うとか、いつも「激(ゲキ)」を使うとか、「マックス」を使うとか。
川口 確かに。違う友達に言っても、伝わらないっていうのはある。
山口 なるほどね。じゃ、このグループは「ゲロ」でいこうとか(笑)。
口元思春期
山口 比喩的で面白い若者言葉ってない? たとえば、「頭がウニ」みたいのは? これは、二〇年ぐらい前に流行った若者言葉。頭が混乱していることを「ウニ」に喩えたのよ。うまいって思った。「話がピーマン」とか。内容がないのね。そういう面白い比喩を使った若者言葉はないかなあ?
原 「口元思春期」。なんか意見言ってほしいときに、「いやー、いいよ、それで」とか言って言わないくせに、みんながまとまりかけている時に、一言発して……。
山口 壊しちゃう。
原 出てほしいところで意見を言わないで、出てほしくないときに出る。「あいつ、マジ、口元二次性徴だわ」とも言う。
山口 口が子供から大人になりかける不安定な時期なのね。日大には、そういう若者言葉、いっぱいありそうですね。
原 サークルとか、すっごい造語が多くて。
山口 こういう言葉っていうのは、サークルに入っている人が一番よくキャッチしてるんですよ。
川口 これは、どうか分からないんですけど、私たちは、とりあえず「だるい」って言葉をいつも使うんですけど、「だるい、だるい」って言い過ぎて、なんかそれはもう「だるしむ」だよね、みたいな。
山口 「だるしむ」?
川口 なんか古語みたいな感じで「だるし、だるし」って言っていたら、「あっ、それ、『だるしむ』だね」とか。
山口 なるほど、比喩じゃないけど、面白い。「だるしむ」の「む」って、なあに? どうしてくっつけたの?
川口 えっ、分からない。なんとなく…。
山口 古語の形容詞「たのし」に「む」をつけてみて。動詞「たのしむ」の誕生ね。「くるし」に「む」をつけると、「くるしむ」。「かなし」に「む」をつけると、「くるしむ」。「あやし」に「む」をつけると「あやしむ」でしょ。
「む」は、動詞化する接辞なんですよ。古語めかした「だるし」という形容詞に「む」をつけて、「だるしむ」という新しい動詞を造った。だから、「だるし」っていう状態が動作になってきて、だらんだらんと行動してる感じになるじゃあないの。こういう類推が無意識的に働いて、新しい若者言葉が出てくるわけ。
川口 ああ、そうなんだ。
山口 今現在のピッカピカの若者言葉が、ずいぶん出てきましたね。ひとまず若者が今どんな言葉を使っているかという話は終了。次のテーマで座談会を再開しますから、しばらく待っていてくださいね。
『若者言葉に耳をすませば』(講談社)より抜粋
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