授業点描

山口仲美
埼玉大学につとめて七年になる。変化を求める心止みがたく、私は今までに勤め先の大学を四回も変わった。埼玉大学は、五回目の勤務先。その他非常勤でさまざまな大学に教えに行った。
こうした経験が今では逆に生きている。いろんな学生に接してきたお蔭で、大学によって学生気質に違いがあり、教え方にそれぞれ別の工夫の必要なことを学んだからである。
私の専門分野は、日本語研究。日本語に関心のない学生たちに、興味を持ってもらえるような授業を行うのが最も難しかった。都心にある盛り場近くの大学の授業にも、とまどった。油断をすると、授業中に教室の後ろからどんどん抜けていってしまうのだ。女子大では、授業中の私語と戦わねばならなかった。抜け出しの出来ない授業形態、おしゃべりしにくい授業形態を工夫させられた。
埼玉大学に来て、私はまず講義のしやすさに驚き、感謝した。私語もなければ、抜け出す学生もいない。一八〇名の学生のいる教室でも、しーんと水を打ったようになっている。「授業中、いつもこんなに静かなの?」という私の質問に、学生たちは黙って首を縦に振った。いささか大人しすぎる日本人学生に活を入れるのが、留学生である。埼玉大学は、留学生の多さに関しては、屈指の大学。留学生たちは、しっかりと自分の意見を述べ、日本人学生によい刺激を与えている。埼玉大学は、私のついのすみかとなりそうである。