擬音語好きの一茶さん

山口仲美


たった十七字からなる俳句。その中に擬音語・擬態語を読み込んで句作をするのが大好きな俳人がいる。一茶である。
艸(くさ)そよそよ 簾(すだれ)そより そよりかな
一句の中に、「そよそよ」「そよりそより」という二つの擬音語を使っている。一句の中に二語も擬音語・擬態語を読み込む俳人は滅多にいない。そもそも、一句の中に擬音語・擬態語を一回だけ使うのですら、芭蕉や蕪村はきわめて慎重。擬音語・擬態語を使った句数の割合を比較してみると、一茶は、芭蕉の五倍、蕪村の八倍も多く使用している。さて、擬音語・擬態語好きの一茶は、一体どんなふうにそれらを使って作句していったのであろうか。
むまそうな雪がふうはりふはりかな
「ふはりふはり」なら、何の変哲もない一般的な擬態語。でも、一茶は、上の語を「ふうはり」と長音を入れて強調し、下の語「ふはり」と対比させることによって、空から落ちてくる雪の速度と重量の違いを感じさせる句に仕上げている。
松虫や 素湯(さゆ)もちんちん ちろりんと
鉄瓶で湯の沸く音は、普通は「ちんちん」。それを「ちんちんちろりん」と聞いて、松虫の鳴く音に通わせ、鉄瓶と松虫の二重奏に仕立てたユーモラスな句。一つの擬音語に二種の音や声を掛けている。
ここここと 雌鳥(めんどり)呼ぶや 下すずみ
樹の下で涼もうというのだろうか、「ここだよ、ここだよ」と雄鶏が雌鶏を呼んでいるという意味。雄鶏の鳴き声「ここここ」を、「ここ」と相手を呼び寄せる言葉に掛けて聞き、人間味あふれる句にしている。こうした擬音語の掛詞的用法は、芭蕉や蕪村が決して使おうとはしなかった手法。狂歌の世界に通じてしまい、俳句の王道を歩む芭蕉や蕪村の好む所ではなかったのである。

(『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』講談社、2003年11月1日刊行のコラム欄6より)